日米でプレーするブルースの違いについて (その2)

僕がここで「黒人」という言葉を使うのは、それは差別用語としてではなく、日本でまだ一般的に使われている総称であり他意は有りません。ちなみに今月の2月はアメリカでは、「Black History Month」と呼ばれアフリカン・アメリカンの歴史を祝う月となっています。

 

さて、ジャズ、ブルース、ソウル及びR&B音楽の根底にはゴスペルがある。つまりアメリカの歴史の中で、黒人が苦しみの中で神に救いを求める信仰心から来た音楽だ。日本で日本人が演奏するブルースを聴いて、そのバックに宗教を感じることはまず無いと思う。

 

例えばブルースの歌詞の中でよくある「Oh Lord」とか「Have mercy」が出て来ても、僕にはその意味が長い間のみ込めなかった。

 

少し時間を逆上ぼると、僕は1990年代半ばに2年ほどロサンゼルスに住んでいたが、その頃は黒人のR&Bバンドでギターを弾いていた。それは自分の音楽の幅を広げるキッカケになった貴重な経験だった。

 

それまで僕はずっと、主に3コード12小節のシカゴ・ブルースに深くハマっていた。ソウルといえば有名どころしか知らなかった。が、それを機に初期のソウル音楽をもっと広く聴き始めた。サザン・ソウルやファンクにも遅まきながら入り始めたのはその頃だった。

 

女性シンガーではアン・ピーブルズが好きだった。彼女の歌い方は肺活量の大きさではなく、歌の巧さで人の心を掴むタイプのソウルシンガーだったからだ。留学生として僕がその以前に、ミネソタ州はミネアポリスに住んでいた時に、アン・ピーブルズがメンフィスからあのハイ・リズムセクションを率いてツアーに来ると言うので、その日をワクワク楽しみに待っていたことがある。しかし結局、彼女は体調が優れずに当日ドタキャンになってしまったのが今でも心残りだ。

 

そうしてロサンゼルスに住んでいる間にひょんな事から、僕が当時メンバーであったR&Bバンドの知り合いの黒人女性に連れられて、毎週日曜朝に正装して近くの黒人バプティスト教会に通うようになった。

 

やがてその教会の20人ぐらいのゴスペル合唱団(クワイア)のバックで、毎日曜日にギターを弾くというこれも貴重な体験をさせて頂いた。全員黒人のそのクワイアは、男女共に揃いの黒く長いガウンを着ていてそのステージは壮観だ。

 

その教会では特に夏場は熱気と共に、牧師の説教も盛り上がって来る。すると、礼拝者の中から何人かの女性が両手を宙に挙げて天井を仰ぎながら、「Thank You, Lord. Thank You, Lord.」と唱えつつ失神しそうになるシーンを何度となく見た。

 

我々バンド側は牧師の口調に合わせてさらに、演奏に強弱を付けて信徒を煽(あお)るのだ。その時の牧師の言葉を思い出すが、「頭が痛い時は医者に行け。心が痛い時は、教会に行け。」と言うようなことだった。その時僕には、マディ・ウォーターズの歌にある「肉が食いたけりゃ市場へ行け、魚は海へ、カネが要るなら銀行へ、そして愛して欲しけりゃ俺の家へ来い。(Don’t Go No Further)」の歌詞が浮かんでいた。

(続く)

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