正と負のスパイラル

ミュージシャンにとって何を持って成功とするかは人に依るが、概ねは富と名声がその測りと考えられていることだろう。 

 

僕は30年前に、日本からアメリカに移住したとき、音楽でメシを食って行こうなどとは、考えたことも無かった。今もその難しさには、何ら変わりはない。自分の周りには、音楽だけで生計を立てている友人は稀で、多くは何らかの副業をしている。 

 

これまで当地で一緒にやってきた数多くのプレーヤー達を見ていると、演奏の準備に対する真剣味の程度は、貰えるギャラの額に比例しているようだ。合理的といえば、それはそうではある。しかし、ブルースのような即興音楽に求められる自発性は、実は充分な準備の上に立ってこそ、生きる。 

 

スターダムを駆け上がる勢いのあるようなプレーヤーは、どんな曲を演るにも、その準備を周到にしているし、本番ではベストのパフォーマンスで聴衆を唸らせようとする。その噂がクチコミで広まり、さらに新しいチャンスが生まれる。正のスパイラル(渦)だ。 

 

逆に、現状で満足している者は、最小限の努力で済ませようとする。準備無しの即興演奏が巧く行けば非常に刺激的ではあるが、たいていの場合は、たいした結果が出ない。で、結局は周りから愛想をつかされて、良い仕事のチャンスが無くなる。ペイの悪い仕事ばかりしてると、ますますやる気がなくなる。負のスパイラルだ。 

 

僕は、バンドのメンバーを選ぶ際には、その人の音楽志向や技術力もさることながら、はたして自分と一緒に仕事をしたいと思ってくれているかどうか、を大いに考慮する。演奏していてそれが、全体のふとした空気感やノリに出るからだ。 

 

こうしてここまで、自分のことを完全に棚に上げて、他人事のように勝手なことを書いてくると、一つ付け足す必要があることに気付く。 

 

それは、ミュージシャンには、運を呼び込めるだけの広い人脈を作る人間力も、成功の要因となろうことだ。実は、これまでわがまま放題に生きてきた自分にとっては、これが一番の苦手とするところだ。

 

           (上の写真撮影は、Kana Sano さんのご好意によります。どうもありがとうございました。)

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