ジャズの思い出(3)


以前、アメリカに移住して間も無く、中西部の都市ミネアポリスに住んでいたときのことだ。 
 

昼間は大学に通いながら、夜はたまに、ダウンタウンにあるブルースバーで、ギターを弾いて小銭を稼いでいた時期がある。 
 

そのバーのオーナーの友人で、有名なジャズプレーヤーが、時折その店に遊びに来ては、興が乗ると、われわれのバンドに飛び入りで加わって演奏したりしていた。 
 

ある日、ライブが終わって、そのジャズプレーヤーと彼が同伴していた女性(奥さん?)をどういうわけか、彼等の家まで僕が車で送って行くことになった。 
 

彼は気さくな人で、車を降り際に、ちょっと家に上がってお茶でも飲んでいくかと、僕に真面目な顔で聞いてきた。が、その時、一緒に居た女性が一瞬、“私に断りもなしに、どうしてそんなことを聞くの?” と声に出して言わずとも、無言の重い空気が瞬間風速で流れた(ような気がした)。 
 

僕は、もう夜も更けていたし、早く家に帰りたかったので、丁重に断って車を走らせた。しかし、その時僕は改めて、アメリカの女性はなんて強くて、発言力があるのだろうと感心した。昔の日本でなら、おそらくいちいち口を挟むなと一蹴されよう場面だ。 
 

前に聞いた上方落語のネタで、京都で “ぶぶ漬け(お茶漬け)でもどうどす?“ とお客が訪問宅の奥さんに聞かれたら、それはもう早くおいとまして貰いたいという合図だという話がある。図らずも、結局あれは実質上、京都の ”ぶぶ漬け“ だったのだ。

 

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